痛い人

男の人というのは、基本的にパワーゲームが好きなのではないだろうか。
どっちが勝ったのどっちが負けたの。
どっちが上だのどっちが下だの。

職場で苦手な人がいる。
いや、今の職場の人を私は全員苦手(苦笑)なのだが、「中でも、姿を見るだけでも苦痛な人」という方が正しいか。

彼と私との力関係は、雇用状況は彼が正社員なのに対して、私はパート。
職歴は彼が業界に入って半年なのに対して、私は職場で1、2のベテラン。
所持資格は彼が無資格に近いのに対して、私は職務関連資格を多数所有。
年令は彼の方が2、3歳年上、という微妙な関係なのは確かだが。
だが彼は、「誰にも教えてもらう必要はない。俺はもうベテランなんだから」という言動で私に噛み付いてくる。

いかにも新人な彼の仕事ぶり。
だが、それをフォローしようとしても、「いや、いいです」とにべもない。
逆に、仕事をする上でのコツや心構え等をレクチャーされる。
彼が仕事の上で必要な情報があるのを見て、私がそれについてレクチャーしようとしても、「いや、いいです」とあやしげな本をめくる。
大抵は私が大学時代に学んだ専門分野に関するもので、私はそれを専門に教えるのを仕事にもしているので、彼がみるようなあやしげな一般書よりも私の情報の方が確実かつ正確なのだが。
職場で新たにパート希望の就職面接があると、決まって、「ろくな人がいない」「ああいう人は欲しくない」と暴言を吐く。
その人たちと自分との差異がどの程度だか、いや、本当に差異があるのかどうか、彼は本当に分かっていないのか。

客観性をもてない人は苦手だ。
他人から学ぶという事のできない人は苦手だ。
自分の姿を直視できず、ただ勝ち負けにだけ捕われて、自分の実力も顧みずに人と見ると優位に立とうとする人は苦手だ。
しかし彼は社員で私はパートで、だから彼の方が給料もいいし仕事も任されている。

彼の姿を見るだけでも苦痛だ。
彼を見ていると痛い。

しかし。
「痛い」というのは「私の感覚」なのだ。
彼が痛いのではない。
彼を見る事により喚起される、私の感情が痛いのだ。
それは、私の存在、私の在り方が痛い事に他ならない。