痛み

結局タクシーをつかいまくりの一日。
交通費がいくらかかったかは考えない事にする。
クライアントに見られる訳にはいかないので、少し先で止めて歩いて戻る。
歩くのは辛いが、ずっと自力で移動するよりかはまし。
この足で自転車やら電車やらは辛い。


10年程前の思い出。
電車に乗って席に座った。車内はそんなに混雑をしていなかった。
駅に停車をし、60歳くらいの女性のグループが乗ってきた。
私の隣に座っていた中学生くらいの女の子2人がすかさず席を譲る。
礼をいって座る年輩の女性。
私も嬉しくなって、にこにことその光景をみていた。
女性達も嬉しそうで、おしゃべりをはじめる。
「えらいねえ。ありがとうねえ」
そして私の方をみて一言。
「中学生だって席を譲ってくれるのにねえ」
顔が強張るのが自分でもわかった。

今ならば何とも思わないだろう。
にっこりと笑みを返せるだろう。
だって、見た目ではわからない。
私の足がどんなに痛むのかなんて、痛みで全く歩けなくなって医者に駆け込んだなんて、そんなの外見ではわからない。

下車駅に着き、足を引きずらないように一生懸命に歩いた。
惨めな気持ちを抱きながら。
私はあの時、きちんと歩けただろうか。
なぜあの時、意地になって歩いたのか。その心の動きは今でもわからないのだけれど。

壊れた足を抱えて10年以上がたつ。
その間に色々な事があった。
無意識に発せられたけれども私には暴力に感じられた言葉の数々。
私は障害者ではない。が、自分が障害を持っている事を知っている。
他人はそれを知らない。知っていても自分はそうでないので実際の理解は出来ない。
それは仕方がない事。
哀しんだり反発をする必要はない。
今は自然に受け止めている。

今では平気でシルバーシートに座れるようになった。
「若いくせに」と見ている人もいるかもしれないが、立っているのが辛いのだから座らせてもらう。
でも、どんなに辛くても「席を譲って下さい」とはまだ言えない。
日本では不快な思いをしない為には言わない方がいいのだろうが、けれども言えるようになったら。
そうしたら、また心の何かが変わるのかもしれない。