罪〜貴女の言葉で思い出した事

貴女の言葉から思い出した事。
あれは、私がまだ高校生だった時の事。

あれは部活の帰り道だった。
夜遅くなったのでわざわざ回り道をして、いつものようにG先輩が私を家まで送ってくれた時。

その日も話をしながら私の家の前まで来て。まだ別れがたくて立ち止まって話し込んでいた。
どんな話をしていたのかは覚えていない。
ただ、当時の私は生きる意味もなく、けれども死ぬ事もできないまま絶望の中に在って、そしてそんな私の包み隠さない姿を知っているのは彼だけだった。

私が覚えているのは話をしていた時、彼がしばらく黙った後、
「死にたいのか?」
と聞いてきた、という事だ。
私はそれを聞いて、少し考え、
「別に」
と答えた。
それに対して彼は更に、
「首を絞めてやろうか?」
と聞いてきたので、私は、
「うん。いいよ」
と答えた。

あの時の私には、死にたかった事も死ねなかった事も生も死も、何もかも意味がなかった。
彼がそれを決めてくれるのならば、それでもよかった。
いや、そうではなく。それでよかった、のか。
正直、どうでもよかった。

私の答えを聞いた彼は私の目を見つめた後、私の首に手を伸ばし、ゆっくりと絞めつけた。
首を絞めながら、彼は私の目をずっと見ていた。だから私も彼の目を見ていた。
肉体労働にも従事をしていた彼の力は強く、だんだん息が苦しくなり周りが見えなくなってきた。
苦しかったが、私は身動ぎをしなかった。

ふいに力が抜け、気づくと私は地面に座り込んで咳き込んでいた。
どうして首を絞めるのを止めたのだろうか。理由が知りたくて見上げると、彼は苦しそうな顔をしていて。
私と目が合うと、ただ、
「俺を殺人者にする気かよ…」
と。ただ、それだけをつぶやいた。

当時の私にとっては2歳年上の彼は大人で、だから私は彼に甘えていた。
しかし、どんなに残酷な事態に彼を追い込んだのか、その意味を理解した今はその罪深さに震えてくる。
あれは、17、8歳の少年に負わすべき罪ではなかった。

私たちは子どもだったのだ。
子ども故にまっすぐで残酷で。
負った傷も剥き出したまま、自分を守る術も知らないままに、互いにぶつかるしか接し方を知らなかった。

今でも考える。
彼は私の「犠牲者」なのだろうか。
「犠牲者」などと言ったら、彼は怒るだろうか。
しかし、当時の数々の事を思い出すと、その後ろめたさから「犠牲」という言葉がつい浮かんでしまうのだ。