背負うもの

友人Hと久しぶりに会う。
結婚を間近に控えた彼女は、とても忙しそうで、でも、とても充実した様子だった。
こういう時に、「とても幸せそうにみえた…」という描写が思いつかないあたり、彼女らしいといえば彼女らしい。

「色々と大変なのよ」と、その事だけは聞いていたが、内容を聞いて驚いた。
もう新居を購入するという。
もちろん、二人だけの力でだ。
ちなみに、友人もその婚約者も特に収入がいいとはいえず、貯金は同年代の人ほどはない。というより、ほとんどない。
かなり無謀にもみえる。
「それでも、毎月家賃を払っていく事を考えると、買った方がいいかと思って」、実家にずっとパラサイトをしていた金銭感覚のない婚約者の尻を叩き、月々の収入から少しずつ貯金をさせている、のだそうだ。
さすが、としか言い様がない。私にはできない。

それにしても、そうやって「二人のもの」を作るのは、勇気があると思った。
「万が一、別れるなんて事になった時、面倒になるじゃない」と、結婚を間近に控えた人に向かって大層失礼なセリフを吐いてしまった私だが、これが本音。
誰かとなにかを始める時には、あらかじめ別れるなんて事になった時に責任をとれる程度、背負える程度、あるいは相手に渡しても諦められる程度のものしか、私は二人の間に作りたくない。
殊に恋愛沙汰では私は「ダメな男」とばかり付き合う性癖があり、こうしていつもいつも責任をとって、あるいは背負ってきた。
そんな私にも不動産物件なんて、荷が重すぎる。

そう言った私にHは、「その時はその時」、と明るく言う。
「その時は話し合って、ちゃんと半分こにするよ。妥協なんてしない。きちんと相手にも等分に払ってもらう」と。

この明るさ、この強さが、私がHに引き付けられる理由であり、これまで付き合ってこれた理由であり。
そして、これまでの長い付き合いの間、この強さゆえに私は救われてきたのだ。
そう思うと、彼女の婚約者が少し羨ましい。

ただ、尻を叩き過ぎて、「結婚は人生の墓場」とばかりに絶望させないでおいてくれ、とチラリと思う。
彼女の事だから、その辺りもうまくやっているのだろうけれど。