極限の選択

体調が突然ひどく悪くなった。
腹部の激しい痛みと吐き気。
息をするのも苦痛な程の痛み。
これだけひどいのは久しぶりで、一瞬「死ぬかな…」と思った。
頭の中はひどく冷静で、以前医者に言われた事を思い出す。

激しい痛みの時にはすぐに救急車を呼ばなくてはいけない。
もしかすると死ぬからね。30分くらいしか時間はないよ。

でも救急車を呼ぶ気にはなれなくて、独り部屋の中でうずくまっていた。
もしかしたら…という時には何も考えられない程の、とても耐えられない程の痛みがあると医者は言っていた。
だから、この程度は大丈夫。
そう考える私。
その一方では、あまりの痛みに、今回こそダメかも、とも思う。
でも、ダメだとしたらそれはその時だという何か静かな気持ち。
ああ、でも、もしも私がここでこのまま死んだら、ネコ達はどうなるのだろうか。
私の死後に誰に世話をみてもらうか、誰とも話をしていない。
いやそれ以前に、この閉め切った部屋の中で私が死んで私の死体が発見されるまでに、このコ達が餓死してしまうかもしれないという事に気が付く。
しばらく大丈夫なくらいの量のご飯と水をやっておかなくては…と思うが、あまりの痛みに身体が動かない。
困ったな、と思うが、すぐに次の日も仕事があるのを思い出す。
私の仕事は代わりのきかない仕事だから、もしも私が無断欠勤したらすぐさま連絡が入るだろうし、それで連絡が取れなかったらすぐに実家に連絡がいくはずだ。
ならば、2、3日もすれば見つけてもらえる。
毎日ある仕事をしていてよかった…などと見当違いの事を考える。
そうやって冷静に頭を働かせながら、でも声もでないまましばらくが過ぎて。
だんだん痛みがひいていく。
ああ、やっぱり何ともなかったじゃん。
救急車を呼ばなくてよかった。

そして。ふと気付く。
どうして私は実家の両親に連絡をとろうと思わなかったのだろうか。
実家までは自転車ですぐだ。
一番身近にいる肉親。
調子が悪いから来て、とか。そう言うくらいはいいはずだ。
子供嫌いの面倒くさがりならばともかく、その逆の両親。
なのに、どうして。

恨みはとっくに消えたと思ったのに。
私は彼等を許していないのだろうか。
独りで死んでいこうと思う程に。