Kさんの事‐3

今日はスケジュールが空いていた。
ここしばらく予定が過密だったため、一日家の中でだらだらとして過ごした。
本当は、中旬からはじまる新しい仕事の準備をしなくてはならなかったのだけれど。

真っ昼間からワインを開ける。
気がついたら一人で二本、平気で空けていた。
最近酒量が増えた。
アルコールで憂さを晴らすなんて趣味、なかったつもりだったけれど、いつの間にかそうなっていたのだろうか。

ワインを呑みながら色々な事を考えた。
この半年に送った命たち。
末娘、長女、長男の3匹のネコたち。そしてKさん。
これまでも沢山の者たちを見送ってきた。
みんな私を置いて逝ってしまう。

Kさん。
成人した子供がKさんの居場所を調べて訪ねて来た時、冷たく追い返したという。
どうしてなのか。一度だけ尋ねてみた事がある。
「なんでかなあ…。つい言ってしまったんだ」
というのがKさんの答えだった。
彼はどうして子供に対してそんな事を言ったのだろう。
答えが欲しくて何度も考えてきたが、未だにわからないままKさんは逝ってしまった。

Kさんはその頃50歳代。まだ働けた時期だ。
その頃のKさんは子供たちの事をどう思っていたのだろうか。
思い出す事はあっただろう。
けれども生まれてから養育は全て子供の母親に任せっきり。そして小さな頃に別れたきり会っていなかった子供の事を、どういう風にどの程度思っていたのか。
私にはその感情がよくわからない。
自分が子供を産んでいないからかもしれない。

二人の子供のうちの一人には、Kさんが名前を付けたという。
もう一人の方は、母親ははじめからKさんとは関係なく子供を産んだようだ。
いずれにせよどちらの子供も母親が育て、彼等はKさんの前から姿を消した。

その事についてKさんは「自分が悪いのだから」と語った。
麻薬と酒のせいで暴力も振るったりもしたという。
「それにしても女ってのは、母親ってのは強いもんだ」
「子供の事は、オレが育てるよりもアイツ(母親たち)に任せた方がよかったんだ」
そう語った事もある。

Kさんは子供に父親らしい役を果たさなかった。
子供たちと別れた後も、その日暮しのいいかげんな生活をしていた、と本人は語った。
そんな自分の姿を、成人した子供に見せたくなかったのか。
父親とは名乗れなかったのか。

Kさんは子供に対して自分を恥じていた。
それがKさんの子供に対する愛情の現れだったのかもしれない。