最後の朱鷺

再び朱鷺が日本の空を舞う。
それをどんなに願っても、遅すぎた。
努力を続けていても、それはきっと誰もが知っていただろう。
個体数があれだけ減ってしまってからでは、もう遅すぎた。
あとは限られたケージの中で、死を待つだけの日。

死因。
突然飛び、飼われていたケージのドアに頭部をぶつけた事が原因らしいという話だが、このニュースを読んだ時、おとぎ話のような事を考えた。

幼い時に生まれ育った山野から離され、檻の中に捕らえられた。
月日が経ち、老いて死を目の前にしたその時。
彼女の目の前に、懐かしい故郷の風景と、その空に舞う仲間たちの姿が現れたのではないだろうか。彼女を誘うように。
そして、還っていくべき故郷に向かって、彼女は飛び立っていったのではないだろうか。

感傷かもしれない。
でも、彼女の最後は孤独ではなかったと。
還っていくべき場所に還っていったのだと。
そう思いたいのだ。