過去旅行記録‐5

庭から祖父母の家の周りをまわる。

家の裏口。
裏口脇の水道には、紙みたいに薄っぺらくなった砥石が、残っていた。(明治生まれの祖父は、物を大事にする人だった)
裏庭は、手入れがされないままに残っていた。
祖父母は植物が大好きで、沢山の花を植えていた。
その花々が、雑草に負けずに咲いている。
家の窓にはカーテンがひかれているので中は見えないが、洗面所の窓辺には入れ歯洗浄剤が置いてあり、おそらく祖父母の使っていたものが、そのまま処分できないままになっているのだろうと思われた。(伯父はまだ必要ではないはずなので)

そして離れの跡。
祖父母の家には離れがあったが、祖父母が入院した数年後の台風で傷んだため、伯父が取り壊した。
この離れは、私が子供の頃、祖父の家に遊びにいく度に寝泊まりした思い出深い建物だったので、私はその跡を見る勇気がなく、取り壊されてから離れのあった中庭には足を踏み入れていなかった。
従って、今回初めて跡を見たわけだ。

半分壊れた中庭への木戸を通り抜けると、真新しい真っ平らな土地があった。
ただ、それだけだった。
中庭も半分潰されていた。
手水石と、小さな池(釣り堀で釣った鯉を放してもらった事がある)は残っていたが、池の水は枯れていた。

玄関前。
玄関前のタイルは、靴で踏むと砂でキイキイと音が鳴って嫌いだった。
久しぶりに踏んだタイルは、やっぱり砂でキイキイと鳴った。

玄関から表門を見る。
表門までの間の小道は、祖父が毎朝きれいに掃いていた。
手入れがされていない小道は荒れていて、ところどころ雑草が生えていた。

そしてまた、庭に戻る。
縁側に座って、庭を見遣る。
見なれた物置きも、井戸も、木も何も無くなった庭。
でも、どこか懐かしい。

カーテンの隙間から何か見えないかと思い立ち、家の窓を覗く。
わずかな隙間から見えたのは、壁に貼られた手書きの電話連絡表。
そういえば、この窓脇には電話コーナーがあったと思い出した。
警察署やら、名前しか知らない親戚の名前に混じり、私の名前を発見した。
祖父が倒れた当時に、私が一人暮らしをしていたアパートの電話番号。
それを認めた瞬間、涙がこぼれ落ちて止まらなくなった。