過去旅行記録‐8

思う存分泣いた後、祖父母の家に別れを告げ、外に出た。
この家を見る事は今後もう二度とないだろうと思ったが、思い残しは無く、すっきりとした気持ちだった。

そのまま、中心街に向かって歩く。
自転車で、祖父母の入院していた病院へ通った道だ。
この道はさすがに良く憶えていて、途中の神社の風景も懐かしかった。

中心街の商店街の寂れ具合に驚く。
よく大判焼きを買った店も、潰れていた。
スーパーも、3軒あったうちの2軒が閉店。
車で行ける郊外の大型店に、客は移動している様子だった。

祖父母の入院していた病院は、相変わらず古かった。
病室がどこだったかは、何度か移動した事もあり、いちいち憶えていない。
ただ、病院の向こうに営業をしているのか不明な寂れたホテルが見え、その破れたキャンバス地の日よけを見た時。母とともに見舞いにきた時、一度、そこで食事を一緒にした事が穏やかに思い出され、それが何だか不思議な気持ちだった。

その辺りで日が暮れ、夕食時。
目に付いた、カウンター席のある和料理屋(元は寿司屋だったのかもしれない)に立ち寄った。
「満席なんです」と、一度は申し訳なさそうに断られたので出ようとするが、そこを呼び止められ、一寸待った後、カウンターに通される。

メニューを見るが、どの皿も2、3人向けのような量と値段。
迷った末、任せるので適当に一人前、地の魚を使った料理が食べたい旨を伝え、合わせて地酒を注文。
そうしたところ、板前さんが様子を見ながら、気持ちよく色々と出してくれ、これが非常に正解だった。
刺身も焼き魚もにぎり寿司も、どれも美味しかったし、料理の合間に出してくれた茹でた巻貝は、噛んだとたんに口から鼻にかけて磯の香りが抜け、これもたいそう美味だったので、これは料理とはまた別に、土産として持って帰れるように用意してもらった。(すると、一人分を真空パックにして、ホテルで食べられるようにと楊枝も添えてくれたので、この気遣いも嬉しかった)
たっぷりと食べて飲んで。
外食で、あれだけ曇りなく満足できたのは、初めてかも知れない。