記憶

今日、交差点で信号待ちをしていると、渋滞でちょうど交差点のところに停車をしていた車のなかから声をかけられた。
そちらをみると、若い女性が笑ってこちらに手を振っていた。
「お久しぶり〜」
などと声をかけられ、どう返事をしようかと迷いながら曖昧な笑みを返しているうちに、車は発車をし、互いに笑顔で手を振り、別れた。

こういう時、本当に困る。
大抵の場合、私は相手の事を覚えていないのだ。
名前はもちろん顔にも見覚えがない。
存在自体を、ものの見事に忘却している。

人の記憶というものは、いったいどうなっているのだろうか。
確かに知っていたはずのもの。
それを。知らない。

それがこの世に存在していた事さえ知らない。
それは。この世にそれが存在していなかった事と同じ。
少なくとも私にとっては。

唯一拠り所にすべき、自分の記憶があてにならない。
足元がすっぽりと抜け落ちるような。
この、不確かな感覚。